仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「ねえ、もう今日はこれくらいにしたいんだけど。そこ退いてくれる? 部屋に戻ってひとりで考えたいから」

「……離婚は同意しない、忘れるな」


一希はまだ言いたいことがありそうにしていたが、美琴が本当に疲れているのを察したのか、渋々といった態度で道を空けた。

美琴はほっとして納戸部屋へ向かう。

背中に一希の視線を嫌というほど感じていた。



納戸部屋に入り扉をしっかりしめると、ようやく肩の力が抜けた。

一希の前に出るといつもこうなる。

緊張して自然と力が入ってしまうのだ。

バッグを置き、どさりと床に座り込む。

思いがけなく言い争いになったが、言いたいことはだいたい伝えられたと思う。

離婚の意思も、美琴が限界だということも。

一希が離婚を拒否して来たことは意外だったが、恐らく世間体を気にして、離婚するにしてももう少し時間を置きたいのだろう。

その辺は義母と観原千夜子と意見が合わないようだ。ふたりは直ぐの離婚を望んでそうだから。

緊張したせい、喉が渇いていた。

けれど一希がまだリビングに居るかもしれないので、しばらく飲み物を取りに行けない。


仕方なくバッグの中を整理しながら、先ほどの会話を思い出していた。

一希の前では感情が高ぶりヒステリックに声を高くしてしまうが、こうしてひとりになると気分が落ち着く。

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