仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「美琴たちを見かけたのは偶然じゃないんだな?」

妙だと思ったのだ。
美琴たちが居たのは千夜子の行動範囲ではなかったから。

美琴には今以上に千夜子の印象を悪くしないため、悩んだ末に知らせて来たと言ったが実際は違う。目撃時間から間を置かずに知らせて来た。

偶然にしては出来すぎている。昨日に限らず、日常的に人を使って美琴を監視をしているのかもしれないと感じた。一希の離婚を手助けするために。

しかし千夜子は魅惑的に微笑み「まさか」と否定する。

「……千夜子、俺は美琴と直ぐに離婚をする気はない」

「あら、結婚が嫌だってあれほど言ってたのに?」

「確かに乗り気ではなかったが結婚した以上は彼女に対して責任がある。今離婚するのは彼女が不利だ。離婚するにしても状況が変わったあとの方がいい」

「一希もお人よしね、美琴さんにそんな気を遣う必要ないじゃない」

千夜子はそう言うと、手つかずの一希のサンドイッチを袋から取り出して「食べて」と強引に手渡して来る。

「美琴さんに一希の妻は無理よ、幼稚で直ぐに感情的になるし容姿も平凡。とてもじゃないけど釣り合わないわ。神楽のお母様も不満みたいで早く離婚させるって言っていたわよ」

「母に会ったのか?」

一希が僅かに目を見開く。

「ええ、新年の挨拶にね、いけなかった?」

「……いや」

千夜子と母が会うことを、一希にとやかく言う権利はない。
< 185 / 341 >

この作品をシェア

pagetop