仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
一希は出来の良くない美琴に優しかった。 根気強く教えてくれて、おかげで割り算が得意になった。

名門中学に通う一希にとって、小学生の勉強など容易いのは当然だけれど、美琴にとっては、世界一頼りになる先生だった。



『私、一希のお嫁さんになりたい』

その頃の美琴は、一希に対して思ったことを躊躇いなく口にしていた。

一希は少し困ったように笑うと、優しくポンポンと頭を撫でてくれた。

『大人になったとき、気持ちが変わらなかったらね』
『本当? 私、絶対変わらないよ。楽しみだなあ』

一希といると幸せだった。
祖父の家での暮らしの辛さを忘れられた。

ずっと一希と居たいと思った。
けれど、突然別れのときが来た。

入院していた母が亡くなったのだ。

美琴が悲しみに呆然としている間に葬儀が執り行われ、母は埋葬された。

泣いてばかりで食事も出来ない美琴を、一希はずっと側で慰めてくれた。
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