仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
（なぜ久我山氏がここまで知っている？）

『……これをどうやって？』

喉がカラカラに乾き、呻くような声が出た。

久我山俊三は同情したような表情で一希を見たが、口から出た言葉は冷ややかだった。

『時間をかけて調べたんだ。君が情報を守っていたのでかなり骨が折れたがこちらには手掛かりがあったのでね』

『手がかり？』

（有り得ない）

そもそもなぜ手がかりがあるのか。一体どこで情報が漏れたのか。

『私に娘がいる事は知っているだろう？　君の母、神楽寛子とも一時期親しくしていた』

『ええ……絢子さんですね』

だが、彼女は十年近く前に病没しているはずだ。

小さな娘が一人いて、亡くなる頃久我山家の屋敷に預けられていた。

脳裏に、幼い少女の姿が思い浮かんだ。

その子はいつも寂しそうにしていた。なぜか一希に懐き顔を合わせると笑顔で近づいて来たものだ。

算数を教えてあげた思い出がある。

久我山絢子葬儀のあとは見かけることは無くなり記憶から薄れていたが、今頃どうしているのだろう。

（痩せて小さな子だったな、とても旧華族家の令嬢には見えなかった）

つい思い出に気を取られていたが久我山俊三の声に我に返る。
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