仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
『一希、お母さんがいなくなっちゃった……私、どうすればいいの?』

『今は泣くだけ泣いて、そのあとは頑張って笑うんだ』

『そんな……笑うなんて無理だよ』

『ずっと泣いていたらお母さんが悲しむ。きっと美琴に幸せになって欲しいと思っているから。今は悲しみしか感じなくても生きていれば必ず楽しいことはあるはずだ。美琴が毎日頑張っていれば幸せになれる』

『……お母さんはこれからも私を見ていてくれてるの?』

『そうだよ。会えなくても美琴を大切に思ってる。だって美琴のお母さんなんだから……今までだって大切にしてもらっただろ?』

『うん……お母さん、いつも優しかった。大好きだった、私はお母さんを悲しませたくない』

『そうだよ、少しずつ元気を出すんだ。まずは食事を出来るようにしよう』

『でも、お腹が空かないの』

『駄目だよ。食事は心と体にとても大切なことなんだ。寂しかったら俺が一緒に食べるから、美琴はひとりじゃないよ』

『うん……』

その時は涙が止まらなかったけど、葬儀から一月だった頃には、美琴は人前で泣かなくなった。

夜布団の中で泣く夜は有ったけれど、日中は頑張って生きようと前向きになろうとした。

一希の言ったことを信じていたから。
彼が居てくれると、それまで受け付けなかった食事も喉を通るようになった。



それからしばらくすると、父が美琴を迎えに来て、久我山家を出ることになった。

詳細は知らされなかったけれど、父と祖父は言い争いをしたようで、それ以来久我山家との縁は切れてしまった。
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