仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～

『お帰りなさい、早かったのね』

美琴は千夜子を傷つけたことなど無かったような、涼しい顔をしてソファーで寛いでいた。
その態度に怒りが増して、きつい口調で問い質した。

『また千夜子に酷いことを言ったそうだな』

『酷いって？』

『目障りだと言って、追い出したんだろう！千夜子を責めるのは許さないと言ったはずだ！』

かなり強く言ったが、美琴は平然と答えた。

『別に許してくれなくていいわ。それよりもここは私の家でもあるのだから、観原千夜子の出入りは今後一切認めないわ。次に見かけても同じように追い返すから。彼女にもそう伝えておいて』

いつものヒステリックな反論ではなく、淡々とした感情の籠らない声だった。

これまでにない美琴の態度に、一希は動揺して返す言葉を失った。

（まるで人が変わったようだ）

そう感じる程、目の前の美琴は冷ややかで熱を感じなかった。

怒りすらも見えない。何もかもを切り捨ててしまったかのようにも見える。