仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
『ねえ、十五日の柿木家のパーティーなんだけど、私も出席するわ』

『そうなのか?』

柿の木家のパーティーは一希も招待を受けていた。会社宛てのものでなく、個人に来た招待だ。

だが千夜子個人が招待されるのは不自然だった。

怪訝な表情の一希に、千夜子は機嫌を直したのか微笑んで言う。

『私も出席したいと思って、神楽のお母様に話したら手を回してくれたみたいで招待状が届いたのよ、観原千夜子宛に正式にね』

千夜子と第一秘書には、柿木家のパーティーに出席することを大分前に伝えていた。

仕事の予定を入れない為だが、その話をした際、千夜子は大した反応は見せなかった。

『なぜ柿木家のパーティーに出たかったんだ?』

それ程重要な集まりとも思えない。

『まあ、いろいろよ。ねえ、当日はエスコートお願いね』

当然とばかりに言われ、一希は困惑しながら口を開いた。

『いや、当日は一度自宅に戻ってから柿木家に向かう』

『どうして? ここから行った方が近いじゃない』

『美琴を迎えに行く』

『え? あの子を連れて行くの?』

千夜子は驚いたように言う。

『ああ、基本的に夫婦同伴だからな』

『だからってあの子にあなたの連れが務まるとは思えないわ』

『何を言ってるんだ? 美琴は久我山家の娘だ。誰が見ても不足はないだろう?』

美琴だって、公の場では一希に噛みついて来ないだろう。

千夜子は不満そうな目で一希を見つめる。

居心地の悪い思いで一希はビジネスバッグを持ち椅子から立ち上がった。

『千夜子の車はこちらで手配しておく。同伴者が必要なら誰かに声をかけるといい。千夜子なら相手には困らないだろう?』

『もちろん困らないけど、ベストではないわね』

責めるような視線を振り切り、一希は急ぎ足で執務室を立ち去った。

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