仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
『前から思っていたけど、お祖父様に対して何か弱みがあるの?』
『私はお見合い相手が一希じゃなくても結婚するつもりだった。誰だってよかったのよ』
今思い返せば、そう言い放った美琴が嘘をついているようには見えなかった。
恐らく彼女は一希の事情について何も知らないのだろう。そして一希との結婚を望んでなどいなかった。
全ては久我山俊三個人が企てたことなのだ。だがその理由は想像ができない。
孫娘の幸せを思うのなら、一希は結婚相手として相応しくなく、その事実を久我山俊三は知っているからだ。
「もう! 一希、聞いているの?」
「ああ……聞いているが、久我山家の件は気にしなくていい。千夜子には迷惑がかからないようにするから大丈夫だ」
はっきりと告げると、千夜子は納得いかないように目を細めた。
「……私は、あの子の存在自体が迷惑なのよ?」
その囁きが、一希の耳に届くことはなかった。