仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「話は、俺の妻についてだ」

「妻? ああやっぱり離婚を決めたのか? いくら政略結婚だって言ってもあれはないよな」

柴本はどこか嬉しそうな表情になり、ワインをゴクリと飲み込む。

非礼なその態度を指摘したくなったが、その気持ちを抑える。

「妻に誤解を与えるような発言をしたそうだな?」

「誤解?」

「俺と千夜子が男女の関係だと言ったんだろう? なぜそんな嘘を吐いた?」

美琴に話を聞いたときは信じられなかった。しかし彼女に写真を見せると迷う様子なく柴本を指し示した。

驚いた一希は直ぐに柴本に連絡を取り、彼の帰国を待っていたのだ。

一希の言葉に、柴本は目を丸くし、それから困ったような苦笑いになった。

「もうばれたのか。久我山家の令嬢は結構おしゃべりなんだな」

「妻が誤解しているようだから、理由を強引に聞きだした。結婚式の前にお前が吹き込んだのだろう? なぜそんな真似をした?」

誤魔化しは許さないと鋭く柴本を見据えると、彼は面倒そうに溜息を吐いた。

「だって千夜子が可哀そうだろう? ずっと一希と付き合っていたのに急に出て来た家柄しか取り柄のないような女に取られるなんて」

「……それが理由か?」

「千夜子が落ち込んでいる様子を見るのが耐えられなかったし、久我山の娘にも事実を知らせた方がいいと思った」

一希の怒りがようやく伝わったのか、柴本はやや緊張したように顔を強張らせワイングラスをテーブルに戻す。
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