仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「今更隠す必要もないから教えてやるよ。俺は昔から千夜子が好きだったんだよ。何度か告白もしている。その度に一希がいるから付き合えないって断られた。他にも俺みたいな男が何人かいたみたいだな。千夜子の男が一希だってのは有名な話だったよ」

柴本の話は一希にとって受け入れがたかった。

しかし、彼の千夜子への気持ちは、過去の態度から察することが出来る。

ふと気が付き、一希は柴本に問いかけた。

「千夜子を好きだと言うなら、俺が結婚している方が柴本にとっては都合がいいんじゃないか?」

その問いに、柴本は気まずそうに口ごもった。

「……千夜子に頼まれたのか?」

そんなはずはないと思いたかったが、そう考えるのが一番自然な答えだ。

柴本は諦めたように頷いた。

「一希が言うように俺としては好都合な展開だったんだけどな、でも千夜子があまりにも落ち込んでたから。いつもしっかりしているのに弱って涙なんて見せられたらなんだってしてやりたくなる」

「千夜子が……涙?」

彼女が泣くなど信じられなかった。

一希が千夜子の涙を見たのは十年以上前に一度きりだ。

「……このことで千夜子を責めるなよ? 嫉妬するのも自分の存在を伝えたくなるのも当然の感情だからな。裏切られた上に責められたら可哀そうだ」

柴本は千夜子の言葉だけを信用しているようだった。

一希の方が偽りを言っていると思い、その認識を変える様子はないようだった。

これ以上何を言っても無駄だと感じた。

「分かった……お前も二度と妻には近づかないと約束してくれ」

「……いいけど、一希、あの子と結婚生活を続ける気なのか? 千夜子のことを抜きにしてもいい女には見えなかったけどな」

無神経な柴本の言葉に思わず言い返しそうになるのを堪え、一希は席を立ち、滞在しているホテルの部屋に戻った。

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