仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
食器を片付け終わり、そろそろ休もうかとしていると、一希が帰宅した。

時計に目をやると十一時三十分。
いつもより、早い帰りだった。

結婚してからの彼は、帰宅しないか、しても深夜一時を回っていたりで、夜に美琴と顔を合わすことはなかったのだ。

「お帰りなさい」

少し驚きながら声をかけると、一希はちらりと美琴を見たものの、すぐに視線を逸らしてしまった。

そんな態度はいつものことだけれど、なかなか慣れることはない。

美琴は胸を痛めながらそれを隠して明るく話しかけた。

「お腹は空いていない? 良かったら夜食を作るけど」

一希は疲れたような溜息を吐いた。

「要らない。いつもそう言っているだろ?」

「そうだけど……でも……」

美琴が口ごもっている間に、一希はビジネスバッグをソファーに投げ置き、バスルームに行ってしまった。

その態度は普段は考えられない程乱暴で、彼の苛立ちが伝わって来た。

(私の顔を見るのも嫌なんだ……)

毎日帰りが遅いのは、仕事や千夜子との事で忙しいからだけではなく、美琴のいる家に帰るのを避けているからかもしれない。

そう考え至ると、一希がバスルームから出てくるのを待つことが出来なかった。

本当は顔が見たい、話がしたい。

そんな気持ちを抑え、美琴はベッドに入り、頭から布団を被った。
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