仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
一希は、リビングと玄関を繋ぐ廊下に、道を塞ぐように立つ美琴に気付くと、千夜子に顔を向けて言った。

「千夜子はもう帰っていい。明日の件についてはあとで連絡する」

「でも……心配だし側に居たいわ。ここで仕事をすれば一希のフォローも出来るし」

千夜子はそう言うと、一希の腕に手をかけ室内に入って来ようとする。

唖然としていた美琴は、そこでようやく声を出した。

「一希、家で仕事をするの?」

一希は疲れた表情で、千夜子の手から腕を離して言った。

「そのつもりだ。千夜子は会社に戻ってくれ」

「いいえ、体調の優れない一希を放っておけないわ」

千夜子は美琴より先によく通る声で発言すると、再び一希の腕に触れようとする。

その馴れ馴れしい仕草に不快感を覚えながらも、美琴は一希の様子を伺った。

朝よりも顔色が悪いように見えた。

(やっぱり、体調を崩していたんだわ。熱があるかもしれない)

だとしたらこんな所で揉めていないで、早く横になった方がいい。

温かくして眠って体を休めることで、回復を早めるのだから。

「一希、ベッドは整えてあるから早く横になった方がいいわ」

美琴がそう言うと、それまでこちらを見向きもしなかった千夜子が、険しい顔を向けて来た。
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