仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
「美琴さん、部外者は口を出さないで貰えますか？　今の当社の状況では休んでいる暇なんてないんです」

部外者というところを強調されたような気がした。千夜子の攻撃性を感じながら、美琴は自分は感情的にならないように努めて言い返す。

「でも無理をして悪化したら、もっと仕事への支障が出るかもしれないわ。体調管理も仕事の一つですよね？　朝から具合が悪かったみたいだし、今日はゆっくり休んだ方がいいと思います」

言い返されたのが不満なのか、千夜子は美しい顔をしかめた。

「美琴さんはまともな会社勤めの経験が無いそうですからご存知無いのでしょうが、責任ある立場の人間は簡単に休めないんです。とにかくあなたが口を出すことではありませんから」

千夜子の刺々しい言葉が終わると、大きなため息が聞こえて来る。一希だ。

そのうんざりとした様子に美琴が内心不安になっていると、一希は千夜子の腕を振り払った。

「千夜子は帰れ。これは上司としての命令だ」

千夜子の顔に一瞬激情が浮かぶ。けれど次の瞬間にはそれを見事に隠し微笑んだ。

「分かったわ。私はオフィスで待機しているから何かあったら直ぐに連絡して」

「ああ」

千夜子は美琴には苛立ちの視線を送り、身を翻し出て行った。
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