仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
一希がホテルに戻って来たのは、朝の五時だった。

結局一睡も出来なかった美琴は部屋の扉が開くん音に気がついたけれど、ベッドの中で身動きせずに寝たふりをした。

顔を合わせたら、余計なことを言ってしまいそうだったから。

どこに行っていたの?
誰と一緒だったの?

普通の妻なら躊躇いなく出せるだろうその言葉を、美琴は言えない。

言っても一希は答えないだろうし、ふたりの関係が悪化するだけだからだ。


正直言えば、一希が初夜をどうするか、予想がつかなかった。

結婚の契約の条件には子供をつくるともあるから義務を果たそうとするか、それとも彼女を裏切らないように、美琴のいる部屋に近寄らないか。

どちらの可能性もある気がしていた。

結果は後者で、美琴の心は悲しさでいっぱいになった。と同時にほっとしてもいた。

一希に帰って来てほしいと思いながらも、愛情のかけらも無く、疎まれているのに抱かれるのは怖かったから。
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