仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
茫然としていた美琴は、続いた代理人の言葉で我に返った。

「鈴本家の援助も当面続けていく手配になっていますのでご心配なく」

「……援助? どういう意味ですか?」

困惑して隣に座る祖父に視線を送る。
祖父はとくに驚いた様子はなく、頷いていた。

「お祖父さま? どういうことなんですか?」

「一希君が鈴本家の援助をしていたんだ。最近後妻から無心の連絡が来ていなかっただろう?」

「来ていませんけど、でもそれは自分達で頑張ってるんじゃ? 私、行政の支援とか調べて伝えたんです」

美琴の訴えを、祖父は冷ややかに笑って流した。

「あの女が生活を変えられる訳がないだろう? 美琴から金を引き出せなくなれば別のターゲットを見つける。そういう人間だ」

「そんな、まさか」

恵美子に離婚の件を報告しに行ったときも彼女はそんな話はしなかった。けれど、

(一希から援助を受けられると知っていたから、私の離婚に関心を示さなかったの?)

 よく考えれば、実家の様子は少しも変化がなかった。

家の中はそれ程散らかっておらず、弟達の習い事も続けているようだった。

(あれは家事ヘルパーさんが、変わらずに掃除や送迎に来てくれてたからなんだ)

いや、むしろ回数が増えて恵美子は楽になっていたのかもしれない。

一希ならそれくらいの支援は可能だろう。

「一希はどうしてそんなことを? 恵美子さんにしつこく言われたの? 何か脅迫された? 私には何も言ってなかったけど」

独り言のような呟きに祖父が答える。
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