仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「そんな……」
信じられなかった。
もう二度と一希と会えないなんて。
(別居になった日、あのときが最後の別れだったと言うの?)
一希はそんなこと一言も言っていなかった。
だから特別な挨拶もなく家を出てしまったのだ。
離婚に向けた別居だと理解していたけれどまだ夫婦なのだから、一希に会う機会はいくらでもあると思い込んでいたから。
青ざめる美琴に、代理人が続ける。
「今回の離婚は世間からも注目されており離婚理由を問われます。こちらの書類にも記載してありますが、神楽氏の有責という形を取ります」
「……一希の有責?」
「そうです。神楽氏の有責による離婚であり、久我山家の令嬢には一切の非はないと公表します」
「それで一希は納得しているの?」
一希は千夜子との男女の関係を頑なに否定してきたのに。
「もちろんです。奥様の今後の再婚の障りにならないよう取り計りたいとの意向です」
「でも一希は不利になるわ。再婚もだけど今後仕事する上での信用が無くなってしまうんじゃないんですか?」
「奥様はご心配なくとのことです」
きっぱりと言い捨てられる。
(私の心配は不要ということ?)
「有責の理由に第三者の名前は入るのかね?」
それまで黙っていた祖父が問う。
「いいえ」
「一希君ひとりが責任をかぶると言うことか」
祖父はそう言い、頷く。
何か考え込むように沈黙した。
美琴も言葉が出て来なかった。
一希は美琴と千夜子に全ての財産を渡し、そしてふたりともに傷がつかないようにしようとしているのだ。
その代償として自分は全てを失って。
(一希、どうしてなの?)
その疑問に答えを貰える日は来ない。
美琴は離婚届けを書くしかない。
書かないでいても一希とは会えないまま時が流れていくだけ。いずれ離婚になるだろうと代理人は言う。
それでも指が震えて署名が出来なかった。
信じられなかった。
もう二度と一希と会えないなんて。
(別居になった日、あのときが最後の別れだったと言うの?)
一希はそんなこと一言も言っていなかった。
だから特別な挨拶もなく家を出てしまったのだ。
離婚に向けた別居だと理解していたけれどまだ夫婦なのだから、一希に会う機会はいくらでもあると思い込んでいたから。
青ざめる美琴に、代理人が続ける。
「今回の離婚は世間からも注目されており離婚理由を問われます。こちらの書類にも記載してありますが、神楽氏の有責という形を取ります」
「……一希の有責?」
「そうです。神楽氏の有責による離婚であり、久我山家の令嬢には一切の非はないと公表します」
「それで一希は納得しているの?」
一希は千夜子との男女の関係を頑なに否定してきたのに。
「もちろんです。奥様の今後の再婚の障りにならないよう取り計りたいとの意向です」
「でも一希は不利になるわ。再婚もだけど今後仕事する上での信用が無くなってしまうんじゃないんですか?」
「奥様はご心配なくとのことです」
きっぱりと言い捨てられる。
(私の心配は不要ということ?)
「有責の理由に第三者の名前は入るのかね?」
それまで黙っていた祖父が問う。
「いいえ」
「一希君ひとりが責任をかぶると言うことか」
祖父はそう言い、頷く。
何か考え込むように沈黙した。
美琴も言葉が出て来なかった。
一希は美琴と千夜子に全ての財産を渡し、そしてふたりともに傷がつかないようにしようとしているのだ。
その代償として自分は全てを失って。
(一希、どうしてなの?)
その疑問に答えを貰える日は来ない。
美琴は離婚届けを書くしかない。
書かないでいても一希とは会えないまま時が流れていくだけ。いずれ離婚になるだろうと代理人は言う。
それでも指が震えて署名が出来なかった。