仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
久我山家の応接間のソファーにリラックスした様子で深々と座る千夜子の姿に、美琴は嫌悪感を覚え顔を強張らせた。

「どうしてあなたが?」

訪問者の応対に出た家政婦の話では、神楽家の客とのことだった。

だから一希の関係者かと思い慌て自室から出てやって来たのに。

千夜子がなぜ“神楽”を名乗るのか分からない。
根拠はないけれど、一希の指示で来たとは思えなかった。

応接間の入口で立ち尽くす美琴に、千夜子が言う。

「そんなところに突っ立ってないで、座ったら?」

まるでこの家の主のような堂々とした態度を不快に感じながらも、応接間の扉を閉め、千夜子の正面の席に座る。

「今日はどのような用件ですか?」

固い声で問うと、千夜子は溜息を吐く。

「お茶を飲む時間も待ってられないの? 随分せっかちね」

「あなたとおしゃべりする気にはなれないので」

嫌味な台詞にも千夜子は動じる様子はなく、紅茶をゆっくりと飲み干した。

「今日はあなたに報告が有って来たの」

「報告?」

悪い予感しかないと眉をひそめていると、千夜子は美琴の反応を確認するように告げた。

「私、結婚が決まったの」

「結婚?」

思わず上ずった声が出てしまった。

(結婚って……まさか一希と?)

離婚はまだ成立してないのだ。そんなはずある訳がないと思いながらも胸が騒めく。

「一希からは何も聞いていない?」

「……聞いていません」

「では私達が仕事を辞めたことは?」

「知っています」

「そう、結局美琴さんと連絡を取り合っているのね、今後関わる気はないって言い切っていた割に意思が弱いわね」

千夜子は馬鹿にしたように顔を歪める。

その態度は自分の夫に対するものとは思えなかった。
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