仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
入口を抜け、ホールに入るとこれからの行動に迷いが生じた。

彼の部屋のナンバーは調べて貰ってあるからフロントに頼み呼び出すのは可能だ。しかし一希に拒否されたら終わりだ。

そんな状況を防ぐ為には、出入り口付近のロビーで一希が出入りを待ち伏せして姿を見つけたら突撃して話しかけるしかない。

待つ時間と労力がかかるが、確実に会える。

しばらく悩んで、待つ方を選んだ。

いつ頃一希が現れるのか分からないので、とりあえず一番小さな部屋を取ってからロビーのソファーに座って一希を待った。

ぼんやりとしていると見過ごしてしまうかもしれないので、注意をして周囲を伺う。

そうまでして一希に会おうとしている自分が不思議な気もした。

(私にこんな行動力があるなんて……それに一希にこんなに会いたいなんて)

昔のようにはっきりと好きとは言えない。けれど、どうしても伝えたい想いはある。

そんな強い気持ちで待ち続けていると、エントランスのガラス扉が開き、長身の男性が入って来た。

――――一希!


遠くからでもすぐに分かった。

ただそこに居るだけでも人目を引く華やかな容貌。

いつものスタイリッシュなスーツ姿ではなく、カジュアルなシャツとパンツ姿だけれど、その存在感は損なわれていない。

彼は前だけを見て無駄のない足取りで進んでいく。

久しぶりに見る夫の姿に固まっていた美琴は、慌てて後を追いかけた。

「一希!」

そう呼びかければ、一希の肩がビクリと震えた。

立ち止まった彼はゆっくりと振り返る。その視界に美琴を入れると驚愕したように目を言開いた。

「美琴……なぜここに?」

驚いてはいるが、押しかけた美琴に怒りを感じている様子はない。

ほっとして更に一希に近付いた。
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