仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「一希は私が嫌いなんでしょう?」

そう問えば、一希は少し驚いたような顔をする。

「聞いたの。私との結婚のときお祖父さんは一希の弱みをついて言うことを聞かせたんだって。その弱みは観原さんに関する内容で、一希は彼女を守る為に従うしかなかったって」

「それをどこで……」

あからさまに動揺した声だった。

「観原さん本人から聞いたの。その後に祖父にも確認した。その通りだって認めたわ」

一希を見つめながら言う。すると彼は美琴から目を逸らしてしまった。

「そんな風に卑怯な手を使って結婚した久我山家を恨んでたんでしょう? 私のこともそれで嫌いだったんだよね?……それなのにどうして助けてくれたの? いつも喧嘩ばっかりだった私を」

感情的になってはいけないと頭では分かっているけれど、心が大きく揺れるのを止められない。

声を大きくする美琴に、一希は観念したように答えた。

「嫌いじゃない。確かに初めは久我山のやり方が許せなかったが、美琴自身を嫌いにはなれなかった。ただ顔を合わせると上手く振舞うことが出来なかった」

「でも一希は私を不要だって言ったんだよ? そして観原さんを誰よりも守りたい相手だって言ってた。そんな風に言われたら嫌われてるって思うよ」

思い出すと今でも悲しみが襲って来る。

そんな想いが顔に出てしまったのか、一希が慌てた様子で言う。

「あれは……悪かった。不要だと言ったのは本気じゃなかった。ただ千夜子を神楽家から追い出そうとするのを止めようとして出た言葉だ。美琴を傷つけるつもりは無かった」

「どういう意味? どうして彼女を家から追い出すことにそんなに反応したの?」

「……久我山さんに事情は聞いてないのか?」

一希が美琴の様子を伺うように言う。

「聞いたけど教えてくれなかった。秘密にすると一希と約束したから言えないって。知りたいなら本人から聞くようにって言われたわ」

「そうか」

ほっとした様に一希は息を吐く。
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