仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「やっぱりそんな話納得出来ない。産みのお母さんを心配して本当のことを言えなかったんだろうけど、それで一希自身は幸せになれるの? あまりに理不尽だと思わないの? 今まで努力して築いて来た地位を観原さんに取られて悔しくないの?」」

「何も感じないと言えば嘘になる。だが千夜子に対して悔しいとは思っていない。彼女も苦労しているんだ。本来は神楽家の娘として何不自由なく暮らしていたところ理不尽な理由でその権利を奪われた。昔一度だけ彼女が嘆いていたのを見たことがある。そのときに彼女に全て返さなくてはならないと思った。約束したんだ、必ず本来の場所に戻れるようにすると」

「……だから、観原さんは一希にとって誰より守りたい人なの?」

「そうだ。守らなくてはいけないと自分に言い聞かせていた」

一希の言った守りたいという言葉。当時の美琴は女性として大切に守りたい相手なのだと受け取っていた。

けれど一希の想いはそれよりももっとずっと切実なものだったのだ。

(一希は自分が観原千夜子の得られたはずの権利を奪ったと思ってるんだ……)

彼女に対する罪悪感と、また同じ立場で秘密を共有する同志。

それが彼女を誰より特別に扱い、守ろうとする理由だった。


「神楽グループの後継者じゃなくなったのはその為なの? 初めからそうするつもりだったの?」

「ああ、時期を伺っていた。だから結婚したくなかった。相手を不幸にしてしまうのが分かっていたからだ」

「でも私の祖父に秘密を握られてしまったから、意思を変えたのね」

今まで疑問だったことの多くが、腑に落ちた。

一希の美琴に対する冷たさ。祖父に対する警戒心。そして厚かましいと感じていた観原千夜子の言動。

彼女は神楽家での権利は自分こそあると信じていたから、一希にも美琴にも強気な態度だったのだ。

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