仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
けれど疑問もある。

「観原さんとお義母様は違う考えだったんじゃないの? だってお義母様は一希と観原さんを結婚させたがっていたし、観原さんも一希を相手に望んでいたように見えた」

美琴の指摘に、一希の表情に気まずさが浮かぶ。

「……神楽の母と千夜子はそう希望していたようだ。だがそれだけは受け入れられなかった。千夜子を妻として神楽グループの代表として生きて行く人生はどうしても考えられなかった」

「それはどうして? 観原さんのことは大切なんでしょう? それに彼女と結婚すれば今の地位を無くさずに済むのに」

義母も千夜子も、一希から全てを奪う気など無かったはずだ。

千夜子と権利を分け合って欲しい。二人の位まで迄の言動からそう願っていたのだと思う。

一希はしばしの沈黙のあと呟いた。

「これからも神楽の家に縛られて生きたくないと思った。俺は何もかも奪われたんじゃない。自ら渡したんだ」

一希はとても冷静だった。

怒りも悔しさも悲しさもない。

きっと彼の本心を言ってるからだ。

(一希は全てのしがらみから解放されたいと願ってたんだ。だから自分の意思で全てを捨てたんだ)

きっとその中には美琴も含まれている。

そう気付いてしまったから、引き留める言葉もは言い出せなかった。

「……一希はこれからどうするの?」

「残務処理を終えたら日本を離れる」

「! ……海外に行くの?」

「ああ、そこで一からやり直したい」

美琴は息を呑んだ。一希はもう戻ってっ来るつもりがないのではないか。

そんな予感を覚えたから。
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