仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
夜遅く久我山家に戻ると、祖父が待ち構えていた。

「お帰り、一希君と話せたようだな」

美琴の顔色で察したのか祖父はそう言い、書斎に来るよう促した。

「顔色が悪いが大丈夫か?」

ソファーに座ると祖父が心配そうに言う。

美琴は力なく答える。

「はい……一希とはちゃんと別れて来ました」

「だが納得しているように見えないな」

淡々とした祖父の言葉に、美琴は顔を上げ目付きを険しくした。

「一希の秘密を聞きました。とても納得出来ることじゃなかった。でも別れるしかありませんでした。今まで苦しんで来た彼がようやくしがらみから解放されるのを邪魔出来ないから」

本当は離れたくないと思っていた。

けれど一希は全てを捨てたいと思っているのだ。

そのやり方も一方的ではなく、十分すぎる程美琴や周囲を配慮したものだった。これ以上は望めない。

彼の為に美琴が出来ることは、望み通り別れることなのだ。

「本当にそれでいいのか?」

再び問いかけて来る祖父に、美琴は苛立ちを感じ声を高くした。

「仕方ないんです。お祖父様だってこうなることが予想出来ていたんじゃないですか? 一希の秘密を知っていたんだから!」

「そうだな」

「酷いです。彼の事情を知っていながら脅迫するなんて……」

一希のこれまでの人生に、自分の意思を通せたことは有ったのだろうか。

「ずっと秘密を抱えていて辛かったと思います。家族と上手く行ってなかったのも無理ありません」

美琴の恨みがましい言葉に、祖父は大きなため息を吐いた。

「だからこそ美琴との結婚を進めたんだがな」
< 330 / 341 >

この作品をシェア

pagetop