仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「どういう意味ですか?」

「以前に、結婚して新しい家庭を大切に思うようになれば、冷静に自分の立場を考えられるようになるだろうと、言ったのを覚えているか?」

「はい」

祖父は美琴と実家の関わりを心配して、そう言った。距離を置いて客観的になれと。

「あれは、一希君にも言えることだった。彼はまるで暗示にでもかかったかのように、自分の幸福を求めなくなっていた。無感動で無欲、鈍感でもあった。それはまだ子供の内に自我を抑えつけられたからだろうが、このままでは良くないと、神楽も心配していたんだよ」

「……え?」

美琴は大きく目を見開いた。

「ま、待ってください、それは神楽のお義父様が何もかも知っているということですか?」

まさかと思う。一希の話でも義父だけが蚊帳の外だと言っていた。

祖父は小さく溜息を吐いた。

「神楽は巨大グループを率いる経営者だ。神楽寛子がいつまでも騙せる相手ではない。彼女も巧妙で気付くのが遅れてしまったそうだが」

「そんな……では、お義父様は全て承知で一希を本当の息子として扱っていたんですか?」

思い出しても、義父の態度はとても自然で、秘密を知っていたとは思えない。

「そうだ。気付いた時にはもう元通りには出来ない程年月が過ぎていて子供を元通りに交換など出来なかった。これほどのスキャンダルは無いからな。それに本当の息子として育てて来たんだ。一希君への情を消すことは出来なかったそうだ。悩んだ末、何も気付いていないふりをして一希君は自分の息子として跡継ぎにすると決めた」

「観原さんのことは? 義父は彼女を疎しく感じているようでした」

「もちろん自分の娘だと分かっていた。名乗らなくても彼女に十分なものを残したいと言っていたよ。ただ観原千夜子の態度は目に余るものがあった。貪欲に権利を主張し、自分と同じ愚かな大人の被害者である一希君に対しても自分の要求だけ繰り返していた。また、神楽寛子と共に彼が罪悪感を持つように刷り込みをしていた。他人に対する態度も酷かった。いくら自分の娘といっても、不快感は拭えなかったようだ」
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