仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
躊躇いながら離婚届けを記入して代理人に届けた。

一希と美琴の離婚は直ぐに成立するだろう。

後悔と悲しみばかりが胸中を行きかう。

けれど一つだけ決心している事がある。


代理人に会った翌日、美琴は久我山家を出て空港に向かった。

一希に、もう一度会う為に。

新しくやり直す一希にとってはきっと迷惑な行為だろう。

それでもどうしても伝えたかった。

(だって私は一度も伝えていなかった)

一希が好きで仲良くしたいと願っていたときですら、言葉にしなかった。

彼が好きだと。

食事を作り、家事をして尽くしていたつもりだったけれど、それで彼に伝わる訳がなかったのだ。

付き合いもせずに夫婦になったふたりだからこそ、言葉が大切だったのに。

一希の乗る飛行機は祖父に調べて貰っていたから大体どの辺りにいるのか見当はつく。

広い空港内のポイントを絞って捜し、しばら
くすると一希の姿を見つけることが出来た。

一希はひとりで佇んでいた。

漆黒の前髪は少し伸びて、表情に影を作っていた。

大きな窓から滑走路を眺める整った横顔は、どこか寂しそうにも見える。

美琴は衝動的に駆け寄り呼びかけた。

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