仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「ここが一希の居場所だよ。私だけじゃない、お義父さんだって何もかも知っているのに一希を想ってる」

「……え?」

「誰からも必要とされてないと思うと苦しいよね、私もそうだったからよく分る。でも一希は必要とされているんだよ、それを忘れないで」

泣きながら訴えると、背中に回った腕に力が籠った。

「もっと早くこうして話しあいたかった」

「今からじゃもう遅いの?」

「美琴を忘れようと決心した。新しい場所でやり直したいと……」

一希の震える声で、その想いを美琴は理解した。

居場所がないと言う通り、彼は全てを捨てている。財産も地位も、もう何も残っていないのだ。。

それにこの決断は彼が初めて自分の意思で行ったこと。今旅立つのを止められなかった。

「私、待ってる。いつか一希と再会出来ると信じて」

一希と別れたら美琴にも新しい暮らしが始まる。

それでも心までは変えられない。

「美琴、俺のことは忘れるんだ。その方が幸せになれるはずだ」

「いや、待ってるのは私の勝手だもの。一希になんて言われても変えないから」

一希は困ったように黙りこんでしまう。

けれどしばらくるすると、囁くように言った。

「一年後、またここで会えるか?」

「え?」

「その時、もし美琴の気持ちが変わっていなかったら、もう一度俺と結婚して欲しい」

思わず顔を上げると、一希の切ない眼差しと視線が重なる。

「……本当に? また私を奥さんにしてくれるの?」

「ああ、再会のときまでに美琴の夫として相応しくなれるよう努力する」

「私も……一希の本当の奥さんになれるように頑張るから」

悲しい涙は喜びの涙に変わり、あとからあとから溢れて行く。

一希がぎこちない手つきでそれを拭ってくれる。


離婚した日、初めて本当の夫婦になれたような気がしていた。
< 337 / 341 >

この作品をシェア

pagetop