仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「神楽さんの帰国って来週か?」

慧が思い出したように言う。

「うん、予定通り帰国するって」

「そうか一年ぶりの再会か? 美琴は神楽さんと再婚して向こうに行くつもりなんだろ? 英語の勉強してるくらいだもんな」

「そう出来たらなって思ってるんだけど」

一希は一年後気持ちが変わらなかったら結婚しようと言ってくれた。

美琴の気持ちは少しも色あせていない。彼も同じ気持ちでいてくれたらいいのだけれど。

「寂しくなるな」

慧がしみじみと言う。

「ときどき戻って来るし、連絡方法は沢山あるし、距離が出来ても友達でいてね」

「ああ、そうだな。美琴も日本の様子が気になるだろう。特にあのふたり。俺がちゃんと監視しておくから安心しろよ」

慧の言うふたりは、千夜子と恵美子のことだ。

一希が旅立ったあと、千夜子は別の男性と結婚し今では神楽家の後継者夫人になっている。

ただ、夫婦仲は上手くいっていないと言う噂があるそうだ。

恵美子は相変わらず一希が手配していった援助で暮らしている。

今は良くても弟達が成長して援助がなくなれば、破綻する。だから真面目に働くべきだと何度か訴えたけれど通じずに、美琴の連絡を拒否するようになった。

最近は美琴もようやく恵美子が立ち直るのを諦め、またそれを咎めない父にも落胆し、弟達だけのことを考えるようになっていた。




他愛ない会話をしているとあっと言う間に店についた。

中では既に数名が集まり、楽しそうに会話をしている。

美琴と慧に気付くと合図を送って来る。受け入れられているのを感じ、幸せになる。

「慧、ありがとうね」

「なんだよ急に」

「沢山友達がいて幸せだと思って。こうなれたのは慧がきっかけだもの、本当に感謝してる」

「……そっか。だったら神楽さんのところに行っても俺たちを忘れずにちゃんと連絡しろよ、それで今度こそ幸せになれ」

慧がちょっとぶっきらぼうに言う。

照れているのが分かり、美琴は微笑んだ。

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