仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
翌早朝目覚めると、一希が隣のベッドで眠っていた。

美琴が気付かないうちに帰って来ていたようだ。

キッチンに行き冷蔵庫を開けると、予想通り夕食は手つかずで残っていた。

(やっぱりね)

慣れてしまったのか、もう大して傷付かない。

(頼まれてもないのに、私が勝手にやってるだけだものね、自己満足なだけ。一希が気遣いに答えてくれないからって傷付くのは間違ってる)

結婚してからこれまで、そう自分に言い聞かせていたからか、本当にそのように感じるようになって来ていた。

リビングのカーテンを開けて、コーヒーを準備する。

朝食は作らなかった。もし一希が食べると言ったら手早く用意すればいい。

それよりも今日も実家に行く予定だから、準備をしないと。荷物をまとめていると、一希が起きて来た。

彼は美琴の存在はないものとしているのか、挨拶もなしにバスルームに向かう。

二十分程で出てくると、自らコーヒーを淹れて飲んだ。

「……一希、おはよう」

そう声をかければ、彼の視線がチラリとこちらに向く。

いつもならば、朝食は? と聞くけれど今日は別のことを口にした。

「今週いっぱい日中実家に行きます。夕方六時頃には帰るようにするので」

「実家に?」

珍しく一希が反応した。

「ええ、体調を崩してしまったので、看病と家事を手伝いに」

彼は険しい顔をする。

「久我山さんはどこが悪いんだ?」

「あ……いえ、祖父の家ではなく、鈴本の家の方に。弟たちみんな熱が出て大変なの」

「ああ……別に構わない、好きにすればいい」

育った実家の話だと言った途端、一希は興味を失ったようだった。

美琴の祖父のことは気にしても、弟たちのことはどうでもいいらしい。

あからさまなその態度に、失望のような残念な気持ちになる。

けれど、その気持ちを隠し、美琴は一希から目を逸らした。
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