仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
実家に通って四日目には、みんなの体調は目に見えて良くなっていた。

恵美子も、家事と子育てを気にせず休めた為か、大分顔色が良くなっていた。

弟たちは今日から学校に行き、三つ子は保育園に登園した。

静かになったリビングのテーブルで、美琴は恵美子と向かい合って座っていた。

「美琴ちゃん、ありがとうね。本当に助かったわ」

「いいの。困った時はお互いさまでしょう?」

「お互いさまって、私は何もしてないわ」

恵美子は後ろめたいのか顔をくもらす。

「お父さんの面倒を見てくれてるでしょ?」

父は四年前、美琴が二十歳の時に脳出血で倒れ、一度は回復したものの、その後再発してしまった。二度目の出血は重症で、身体が上手く動かず未だにリハビリ施設に入っている。

美琴は祖父の援助と引き換えに家を出たので父の介護に参加できていない。
その分、恵美子の苦労が増えていた。

「恵美子さん、大変でしょう?」

「たしかに体は大変だけど、でもいいの。好きで結婚したのだから、彼が病気をしたってその気持ちは変わらないし、お世話を他の人に任せたくないもの」

微笑む恵美子を見ていると、胸が締め付けられた。

同じ夫婦といっても、美琴と一希の関係とはあまりに違う。

心から結びついているような、強い絆を羨ましく思った。

(私には得られないもの……きっとこの先もずっと……)

目元が熱くなり涙がこみ上げそうになった時、恵美子の意思のこもった声がした。

「だから店も絶対に潰さないように頑張りたいの」

「……そっか……じゃあ、洗濯とか掃除の家事サポートの人に来てもらうようにしたらどうかな? そうしたらお店と子育てに集中出来るでしょう?」

「そうしたいけど、難しいわ」

「お金なら大丈夫。私が何とかするから」

恵美子は驚いた顔をしてから、「そんなの悪いわ」と遠慮して来た。

けれど、このままでは破綻すると分かってはいるようだった。

家族を助けたいと思った。

(ここではみんなが私を必要としてくれてるから)

力になりたいと思う。それは自分自身のためでも有った。



午後になり三つ子を保育園に迎えに行ってから、神楽邸に帰った。

ここ数日では早めの帰宅で、午後四時三十分。

時間に余裕が出来たので、久しぶりに丁寧に掃除をしようかと、寝室の扉を開いた美琴は、目に入って来た光景に、その場で凍りつき動けなくなった。


一希のベッドに、千夜子が横たわり、美琴を挑戦的な目で見つめていたから。

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