仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
理由は思い出せないけれど、美琴がクラスの男子数人から責められた事が有った。

多勢に無勢で萎縮していたとき、慧が間に入って美琴を庇ってくれたのだ。

その時、いつも明るくお調子者だった彼が怒るところを初めて見た。

美琴も他の同級生も、その迫力に圧倒され何も言えなくなった。


（あの時もこんな目をしていた覚えがある）

つまり、彼は今とても怒っているのだ。

（でも、どうして？）

理由が分からない。

少し前に一希の話をしたときは、慧は彼に対して嫌悪感を持っているようには感じなかった。

この短い間に起きたのは、美琴が一希を責めたことくらい。

事情を知らない側から見れば、美琴の方がヒステリックで、不快に見えただろう。

「……慧、どうしたの？」

小声で問うと、彼はほんの少しだけ目元を緩ませる。

どうやら美琴に対して怒っている訳ではなさそうだ。

慧は一希に、それまでと同じ口調で言った。

「神楽さん、もう少し美琴と昔の話をしたいんですけど、パーティーの間、彼女をお借りしてもいいですか？」

思いがけない慧の申し出に美琴は動揺する。
チラリと一希を見れば、彼の顔には隠しようのない苛立ちが浮かんでいた。

けれど慧は構わずに続けて言う。

「神楽さんはまだ仕事の話があるんですよね？ 妻を放って秘書を同行させているのだから」
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