仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「美琴はどうして結婚を決めたんだ? 結婚前は神楽さんも優しかった?」

慧の口調が穏やかになった。
美琴の内心の動揺を察して、気を遣ってくれているのかもしれない。

「お見合いだったから大して交流は無かった。結婚したのは祖父の命令で」

「どうして? 言いなりになって結婚するなんて美琴らしくないな」

「……いろいろ有って受け入れるしか無かったの。事情は言えないんだけど」

慧は顔を曇らせた。

(心配してくれるのは分かるけど、家のことは言えない、ましてやお金の為に結婚しただなんて……)

そこまでかつての同級生にさらけ出せない。
慧からしても気分が悪くなるだけだと思う。
何より、打算的な女に変わってしまったと軽蔑されそうで怖かった。

幸い、慧は追求して来なかった。

「美琴は今のままでいいのか?」

「良くはないけど仕方ないって諦めてる」

「……離婚は考えてないってことか?」

「今のところは。現実的に無理だから」

はっきり答えると慧は黙った。

納得いかない様子が伝わって来るけれど、それを口にする気はないようだった。

(昔から世話好きで、曲がった事が嫌いだったものね)

自分が口出しすることではないと分かりつつも、歪んだ夫婦関係を目の当たりにして、不快感を募らせているのだと感じた。

「ごめんな、踏み込んだこと聞いて」

「大丈夫。慧が気にしてくれてるんだって分かってる。私こそごめんね、嫌なところ見せちゃって」

なんとか微笑むと、慧はしばらく黙ったあと、バツの悪そうな顔になる。

「あのさ、早速前言撤回することになるけど、俺はやっぱり見過ごせないんだけど」

「なにが?」

「なあ……神楽さんの秘書の観原さんだけど、いつもああなのか?」
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