仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
「神楽さんは、観原さんを相当気に入っているのかもな」

やはりと思った。

（慧は観原千夜子が、一希の愛人だって見抜いたんだ）

美琴を気遣ってか、直接的な言い方はしないけれど。

「……慧は二人を見てそう感じたの？」

「それもあるけど、今日、観原家が招待されているから。観原家は柿ノ木家と交流なんてない。ほぼ間違いなく神楽さんの根回しだろ？」

「観原家って、どんな家なの？」

「開業医だって聞いているけど、詳しくは知らない。でもこういう場に招待されることはない家だ」

「招待されない……そうなんだ」

一希からの心無い仕打ちに慣れている美琴も、その事実には愕然とした。

（また、私を騙したの？）

千夜子を同伴すると美琴が怒るのは明らかだから、わざわざ招待客として同席出来るように計らった。

（どうしてそこまでするの？）

どんな時でも千夜子と離れたくない。
でも、世間的な妻は美琴だから、なんとかふたりを連れて行く方法を考えたのだろうか。

このパーティに、美琴の旧友がいるなんて予想しなかったはずだ。

実際慧に会って居なかったら、そんな事情を美琴が知る機会は無かった。

（……あんまりだわ）

底が無いほど傷付いていたと思っていたけれど、そうでは無かった。
あのふたりはどんどん美琴を追い詰めて来る。

「美琴、どんな事情が有るのか知らないけど、こんなのは不自然だ」

「うん、分かってる」

「あんまり無理するなよ、俺に話していいって思ったらいつでも相談して来いよ。力になるから、これでも結構頼りになるからな」

真摯に言う慧の姿に、強張っていた気持ちが少しだけ和らぐ。

「……ありがとう」

今ひとりじゃなくて良かったと思う。

慧がいるから、以前のように怒りに支配されずに済んでいるのだから。



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