仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
朝食は豪華で美味だったけれど、終始和やかさとは程遠い空気が漂っていた。
一希は美琴と目を合わせようともせず、会話を拒否するオーラが溢れている。
ただ、出された料理を綺麗に片づけて行く。食事を楽しむと気はまるでない、ただの栄養摂取。
美琴は食欲が減退するのを感じながら、それでもなんとか飲み込んでいく。子供のころからのしつけで、どんな時でも残すのに強い罪悪感を覚えてしまうのだ。
それでも寂しい気持ちは胸でもやもやと燻り、現状が悲しくなる。
(家に居る時はいつもみんなで楽しく食事をしていたのに)
大家族の食卓はいつも賑やかで、おかずの取り合いなんてことも日常茶飯事だった。
油断すると自分の分が無くなっていたけれど、それでもとても楽しくて笑いが絶えなかった。
美琴は過去の出来事から食事の時間を大切にしていた。一希も同じだと思っていたのに。
同じテーブルについていても、遠く感じる。
(私のこと、妻と認めないだけじゃなく、家族としても見ていないんだわ)
一希になぜこれほど疎まれているのか分からない。
ただ邪魔だというだけで、ここまで冷たくなれるものなのだろうか。
美琴がどうしても結婚したいと言い出した訳ではないことは、一希だって分かっているはずだ。
嫌うならば祖父の久我山俊三か、神楽家の当主である自分の父親が筋なのに。