仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「私だって、一希の交友関係に口出ししていないでしょう?」

「だから、自分の行動にも口出しするなと言うのか?」

一希が苛立っているのは明らかだった。

自分より身体が大きく、醸し出す空気も迫力がある一希からは、痛いほどの威圧感を覚える。

「そうだけど」

怯まずに言い返せたのは、美琴の中に消えない怒りが燻っているからだ。

一希は大袈裟なため息を吐いた。

「お前は神楽家の人間になったんだ。考えなしの行動で、家名に泥を塗ることは許さない」

「慧と仲良くすることのどこが、神楽家の恥になるの?」

慧は名門葉月家の御曹司。本人はたいして意識していないようだったが、生まれついての上流階級の人間だ。

神楽家が付き合うのに、何の問題もない相手だというのに。

「彼のことは一希だって知っているでしょう? 同じ学校だったって聞いたわ」

「彼の出自についてどうこう言っている訳じゃない。公の場でふたりきりで長く過ごしていたのが問題なんだ。ただの友人同士だとしても、周りはそうは受け止めない」

美琴は信じられない思いで目を瞠った。

「なにそれ? 私と慧が不適切な関係と見られたって言いたいの?」

「そうだ。少し考えれば分かるだろう」

一希は軽蔑したような目をして頷く。

その視線を受け止めた美琴は、驚愕から怒りへと感情が動いていくのを感じた。

そして、怒りは呆れへと変わっていく。

「……一希がそれを言うなんておかしいわ」

美琴はクスクスと笑いながら、言い放った。

「みっともない真似をしているのは、一希でしょう? いつもいつも愛人を侍らせてるんだから」
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