仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「何を言ってるんだ?」

一希はうんざりとした目を美琴に向ける。

「誤魔化そうとしているの? 今更だけど。寝室で鉢合わせたこと聞いてるんでしょう?」

「寝室?……何の話だ」

怪訝な表情の一希に、美琴は不審を覚え口を閉ざした。一希が本当に戸惑っているように見えたのだ。

(まさか知らないの?……いえ、あのときのことは観原千夜子に聞いてるはず。だって、私が彼女に目障りだって言ったのを知って怒っていた)

「知らないふりをしてやり過ごせると思わないで。観原千夜子が一希のベッドに居た事実は変えられないんだから」

一希は美琴の苛立ちの籠った言葉に目を瞠る。

口を開きかけた彼に言い訳をさせないように、美琴は更に言い募った。

「観原千夜子が一希の愛人なのは結婚前から知っていたけどね。でも結婚後も堂々と家に出入りするとは思わなかった。二人とも余程私を馬鹿にしてるのね」

言葉にする度に、蓄積して来た怒りがぶり返すようだった。

一希を見る目がどんどん厳しくなっていく。
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