仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
美琴は呆れたように肩をすくめた。

「違うって、まさか私への態度が普通だったと思ってるの?」

「……そうじゃない、だが千夜子とは別問題だ」

一希はそれまでより勢いを無くした声を出す。

どうやら美琴への態度が酷かったのは自覚しているようだ。

それでも千夜子との関係は認めない。

「話すだけ無駄みたい……もういいわ。一希は観原千夜子と好きにすればいい。でも公認した訳じゃないから私の視界に入らないようにして。それから私の交友関係には一切口出しをしないで。もし介入して来たら、彼女との不貞をお祖父様に報告するわ」

そう宣言すると一希から視線を外し、車窓の先の光景に向ける。

(一希の考えが分からない……)

なぜ、否定するのか。

普通に考えれば愛人を持ちながらも妻が大切で離婚したくないからだろうけど、一希に限っては当てはまらない。

千夜子に関する事柄以外の態度も、明らかに美琴を嫌っているから。

(観原千夜子を守っている?)

彼女を不名誉な噂から庇いたいのだろうか。

(今更無駄だと思うけど)

今夜のパーティーでも、二人が寄り添っているところを多くの人が目にしたはずだ。

皆、感心が無いようにしながらしっかりと見ていたはずだ。

会社でだって似た様なものだろう。

(とにかく一希が何を企んでいるのか調べなくては)

背中に突き刺さるような一希の視線を感じながらそう決意した。


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