愛のない部屋
キョロキョロと見知らぬ土地を見渡す。
「やみくもに探すより旅館で待機してた方が良いと思うけどな」
文句を言いながらついてくる峰岸を無視して、旅館の周辺を歩き回る。
「だいたい旅館の近くにいたら、すぐ見付けられちゃうじゃんか」
「あ~もう、うるさい!嫌なら帰って」
「はぁ、面倒くさっ」
ぶつくさ言いながらも帰ろうとしないアンタの方が面倒くさい。
「……マリコさんは良いの?」
顔を見ずに尋ねる。
私なんかに構っている時間はないんじゃないの?
「妬いてくれてるのか?」
「まさか。ただアンタが好きなのはマリコさんなのに、どうして私に構うのかが分からない」
大切な人がいるのなら、私なんかに構わずに放っておいてくれれば良い。
「昨夜のこと忘れたわけじゃないよな?」
低い低い声。
大好きなその声で私を"好き"、と言ってくれた大切な夜を忘れるはずないけれど。
「昨日のことなんて忘れた」
忘れてしまえば、マリコさんとの恋を応援できるのに。
甘い毒を撒き散らし、そうさせてくれないのは峰岸自身の仕業だ。
罪な男。
「忘れてた?それなら脳裏に焼き付くまで、何度だって言ってやる」