愛のない部屋

タキや舞さんに支えられてなんとかタクシーに乗り込む。

足に力が入らない。


「それじゃ、また」


私をタクシーに乗せてタキはあっさり引き下がる。


「え?」

送ってくれることを期待していたのに。



「また後日、ゆっくりお話しましょう」


舞さんまで……?




「おまえの家の住所、知らないから。俺んちな」




そう言って峰岸だけが私の隣りに座った。

よく理解できぬまま舞さんとタキに見送られ、タクシーは発車した。



「寄りかかっていいぞ」


無理矢理に頭を掴まれ、峰岸の肩に誘導される。

それを拒否する元気はない。

峰岸はそっと私の頬に触れた。



「冷たいな……」


「少し寒気がするからかな」


気分も悪い。

あんな体験をした後なのだから、当然だと思う。

まだ、怖い。



「医者、行くか?」


「ううん。大丈夫だよ」


「それじゃぁ俺から体温を奪え」


私の両手を包み込むように、峰岸が手を重ねた。


あんなに気になっていたマリコさんのことをこの時だけは気にならなくて、心地よい峰岸の温もりを素直に感じていた。

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