愛のない部屋

ふらふらと車道に出てもタクシーは捕まらない。
駅までは歩けないし、できればもう一歩も動きたくなかった。

涙を止める術もなく、タクシーを待ち続けていた私にタイミングよく篠崎からの電話がかかってきた。

私のピンチにいつも傍にいてくれる。


「もしもし」

『俺だよ、俺。詐欺じゃねぇぞ、本物』



いきなりテンションの高い声が響き、思わず笑ってしまった。

能天気な上司、兼 彼氏はいつも私の気分を明るくしてくれる。

こんな人を本気で好きになったら、きっと幸せになれる。

遊び人でも根は真面目。
おちゃらけているようで、実は繊細。

そのギャップがまた面白い。


「篠崎さん?」


『なぁに沙奈ちゃん』


「迎えに来てくれませんか?」


『なに!?彼氏のお迎えが必要なわけね。今、何処~?』


「峰岸の家の近くです」


『……』


なるべく嘘はつきたくない。


『後、15分かかっちゃうけど平気?』


「お願いします」


なぜ"そんなところにいるの"そう聞かないのもまた、篠崎の優しさだ。

< 226 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop