愛のない部屋
「沙奈」
車から降りてきた篠崎に初めて呼び捨てにされた。
「大丈夫?遅くてごめん」
「いえ……」
予定していた15分より大分早い到着だ。
遅くなんかないのに、篠崎はスタスタと歩いてきて私を抱き締めた。
強い力だ。
まるで峰岸など視界に入っていないかのような振る舞い。
「もう大丈夫だからな」
その言葉と同時に、
篠崎の顔が近付いてきた。
――えっ……、
突然のことに、動けなかった。
キス……?
鼻と鼻が触れ合う位置で、
篠崎は制止した。
キスされることを予想していた私は、驚きながらも安堵。
ただ、
峰岸の位置からは
私たちが
本当にキスをしたように見えたに違いない。
そして今日は色々あり、普段の強気な私ではなく、おまけに篠崎に心を許していたせいで油断していた。
――抵抗できなかった。
峰岸には
私がキスを受け入れたように映っただろう。
そして、たぶん
それが篠崎の狙いだ。