愛のない部屋
しばらく抱き締められ、解放されても顔を上げることができなかった。
峰岸の表情を確認する勇気なんて無い。
「あれ?おまえ居たのか」
本当に驚いたように言うので、わざとらしさは無い。
篠崎さん、本当に峰岸の存在に気付いてなかったのかな。
「ずっといたよ。変なもん、見せやがって」
"変なもん"……やはり峰岸にはキスシーンに見えたのだろう。
「俺こそ照れちゃうよ」
篠崎は私の頭を撫でて、『ねっ』なんて同意を求めてくる。
「まぁ……」
曖昧に濁し、峰岸を見ればバッチリ目があった。
怒っている様子もない。
私が篠崎とキスしたからといって、峰岸が怒る理由にはならないだろうけれど。
少しくらい妬いて欲しい。
一度は、ほんの少しだけでも私を好きになってくれたのだし、嫌な顔くらいして欲しかったな。
「体調優れないみたいだから、ちゃんと送ってやって」
「ああ。サンキュ」
峰岸は私から視線を外すと、篠崎と短い会話を済ませて背を向けた。
その後ろ姿にお礼のひとつくらい言いたかったが、結局、口を開けなかった。