愛のない部屋
篠崎が"コイツ"と呼ぶ相手を見て、絶句した。
「さっきまで一緒にいたんだわ。そしたら急に沙奈ちゃんの家に案内しろ、って喚き立てるんだよ。近所迷惑だよね」
「うっせぇな」
「まぁ来て良かったよ。こんな夜中に女の子ひとりは危険だもんね?」
篠崎の言葉は両耳をすり抜け、なにも頭の中に入ってこなかった。
どうして――、峰岸がいるの?
運転席に座る峰岸の横顔を凝視してしまう。
「沙奈ちゃん、なんかあった?どうして峰岸に電話をしたの??」
篠崎を差し置いて峰岸に電話したことへの疑問を篠崎も感じているのだろう。
それに答えることは簡単だけれど、口には出来ない。
峰岸より篠崎を選んだ理由なんて"好き"だからという陳腐なもの。
「そりゃぁおまえが頼りないからだろうが」
一番聞きたかった声が悪態をつく。
「はぁ?こんな頼りになる良い男はいないでしょ……あ、もう降ろして」
篠崎は車を止めるように言う。
「沙奈ちゃんの新しい家のことなら本人に直接案内させれば問題ないでしょ。俺、酒入ってるし運転は無理だから。車はおまえに任せた…もう眠いよ」