愛のない部屋

「寝ぼけてて篠崎でなく、間違えて俺に電話したんだ?」


まだ行き先を告げていない。再び走り出した車は何処に向かうのか。


「俺は嬉しかったよ。一緒にいた篠崎の携帯は鳴らず、俺に連絡をくれたことが」


「……」


「おまえが会いたかった奴が篠崎なら引き返そう。まだそう遠くには……」


「違うの」



もういい加減、嘘には疲れた。

いつからこんなにも嘘をつき続けることが、苦しくなってしまったのだろう。


「違うの……」


同じことを繰り返しているだけでは、なにも伝わらないのに。

上手く言葉がまとまらない。




「今夜、おまえの隣りにいるのは俺で良いの?」


「アンタさえ迷惑じゃなければ」


「迷惑なんて思ってないさ」


ありがとう。

今夜は少しだけ、一緒にいたい。



「……今、どこに向かってるの?」


「行く宛はない」


「……そこを右に曲がって」



後部座席から身を乗り出して、道を指さした。


ただ走り回っているだけなのなら、私の新居に案内しようと決めた。


「家に案内するから」


「良いのか?」


「うん。話したいことがあるの」


車内では喋りにくいし、なにより峰岸の表情がよく見えない。

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