愛のない部屋

「俺も言いたいことあるから、ちょうど良かったよ」


「うん……」


もし私がマリコさんの立場だったら。こんな遅くに女性と会うことに良い気持ちはしない。嫉妬や喧嘩の原因になるかもしれないけれど、
それでも引き返せない。


峰岸とちゃんと向き合えるのは今夜だけだと思うから。


明日になったらまた口を閉ざして殻に閉じ籠ってしまいそうだから。

そんな言い訳を並べながら、なんとかしてマリコさんへの罪悪感を消し去ろうとしていた。




静まり返った車内。

近くにある小さな公園の名前を挙げたら、峰岸は私の家の位置を理解したらしくスムーズに車を走らせている。


大切なことだから部屋に着いてから話そうと思っているのだが、どうも峰岸も同じ考えらしく口を閉ざしたままだ。


こんな時に明るい話題を見つけられるほど、機転の利く女じゃないから沈黙に耐えるしかない。


斜め前の峰岸の横顔だけを見て、物音たてずにじっとしていた。


「俺の顔になんかついてる?」


視線に気付いたのだろう。


「あ、ううん」


慌てて目を逸らしても気まずさが積もるばかりだ。

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