愛のない部屋

恥ずかしい台詞を、こんな近くで……



「とりあえず帰ろう」


「私の居場所は、此処だよ」


せっかく借りたマンションを手放す気にはなれない。


「なに言ってるの。最初に戻るだけだろう」


「最初?」


グイグイ力を入れて峰岸を押し退けようとしても動く気配はない。



それどころさ腕が背中に回り、床の上で抱き合う形となる。



「愛のない部屋に、戻るだけ」


「……なにそれ」


「住み始めた頃みたいにさ、お互い干渉せずに好き勝手やろうぜ」


峰岸を空気として扱っていた最初に戻ることなんて、できると思う?

傍にいるだけで意識してしまうのに。



「俺のこと好きじゃないんだし、別に平気だろう?……俺はしばらくはマリコを優先する。だからおまえには触らないし、余計な干渉もしないよ」


「……」


「苦しいのは"俺だけ"でしょ?」



私だって苦しいよ。

また息がつまる生活に戻ることよりも、
伝えてはいけない想いを抱えながら、峰岸と一緒に住むなんて苦しすぎる。


「だからもう少しだけ充電させて。おまえの体温を感じている間は、すごく幸せなんだ」


< 254 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop