愛のない部屋
「明日、戻ってきて」
「嫌だ、って言ったら?」
「言わせない」
「上から目線なんてムカつく」
「うっせぇな」
峰岸は身体を起こしてから、私の手を引いて向き合って座る。
「沙奈、愛してる」
「バカ……」
ズルい。
私だって"好き"って言いたいのに。
我慢している私を差し置いて、愛の言葉を紡がないで欲しい。名前を呼ぶ甘い声に惑わされそうになる。
「また明日な」
「またね」
一緒に住み始めた頃、峰岸のことをなにも知らずにただただ居心地の悪さを感じていた。
居候という身分で生意気なことも吐いたけれど、肩身が狭くて息苦しかった。
それでも明日、
私は自らの意思で
あの"愛のない部屋"に
戻るだろう。
愛のない部屋だって、なんだっていい。
峰岸の傍にいられるのなら、そして一緒に住むことを彼が望むのなら、私は再びあの部屋に戻るのだ。