愛のない部屋

遅い朝食を口にする。
峰岸が帰った後は、不思議とぐっすり眠れた。



朝食はサンドイッチ。
峰岸への差し入れにも、ちょうど良いかも。


荷物は元から少ないので家を離れるといっても大掛かりな作業はない。ただボストンバックと、紙袋に入れたサンドイッチが入ったお弁当箱を持って行くだけだ。


途中まではタクシー。


タクシーから降りて、少し懐かしい峰岸の家の玄関が視界に入り、そして足を止めた。


「マリコ、家には上げられない。これだけは譲れないんだ」



大好きな低い声が、私以外の女性の名前を呼ぶ。



「どうしても駄目だと言うのなら、小さなアパートでも良いから借りて、一緒に住みましょう」


「それはできないよ」




マリコさんの後ろ姿。姿勢が良くて、艶のある黒髪が印象的だ。


「……あっ、」


峰岸が私の姿を捕らえた。


申し訳なさそうな気まずそうな表情。



「あら?どなた??」


綺麗な声が響く。

マリコさんは品定めをするような目付きで、私を凝視した。

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