愛のない部屋
途中の階で降りた彼女に篠崎はひらひらと愛想よく手を振る。
どんな動作をしても慣れているようで絵になっている。
「…………疲れた」
エレベーターの扉が閉まった途端にため息をついた篠崎は腕を組み壁に寄りかかる。
「しつこい女なんだよ」
「はぁ…」
「馴れ馴れしく名前を呼びやがって、腹の中じゃなにを思っているか分からないぞ」
あー怖い怖い、
なんて呟いていると思ったら素早く話題を変えた。
「峰岸とはどうよ?」
「……距離を置くことになりました。ただまた一緒に住むことになったんですけど」
「距離を置くのに同棲?よく分からねぇや」
開いたドア。
篠崎は私を先に降ろしてくれた。
「ま、上手くいくんだったら、なんでも良いよな。なんかあったら相談しろよ」
篠崎の反応は随分とアッサリしていた。
「篠崎さん……」
オフィスに入ろうとする彼を呼び止める。
「分かってるよ。俺は大丈夫。2人のフォロー、いつでもするから」
たくさん甘えさせて貰った。
峰岸のいない夜、ホテルで話を聞いてくれて。
嫌な顔をせず、車で迎えに来てくれもした。
「ありがとうございます」