愛のない部屋
「……沙奈。俺は、」
なにか言いたそうなタキの言葉を遮る。
「タキは幸せな家庭をつくって?私みたいに愛情を知らない子供にしないでね」
生を受けたことを恨むような、そんな子供にしないで。
「……愛情か、」
そうぽつり呟いたタキは、顔を歪めた。
「おまえも誰かのことを愛せれば良いな。いつかそんな日が来ることを、俺は待ち望んでる」
「ううん。私はタキを愛してるよ」
「えっ……」
ストレートな表現に、タキは面食らった顔になる。
「タキのこと、ちゃんと愛しているんだよ」
伝わって欲しくて同じことを繰り返す。
「恋とは違うけど、友達としては凄く好き」
「……友達としてかぁ」
「うん」
「ありがとう」
2人で笑った。
後、半年したらタキはアメリカに行く。
それで、いい。
側にいたら甘えてしまいそうな私に、神様は意地悪をしたのだ。
タキから離れても、ひとりで立っていられるように試練を与えられたのかもしれない。
それならば、受けて立とう。タキを困らせないために。
「もう此処に来ることも、ないのかな?」
私とタキが初めて言葉を交わした場所。
珍しくもない、ファミリーレストラン。