愛のない部屋

「……沙奈。俺は、」


なにか言いたそうなタキの言葉を遮る。


「タキは幸せな家庭をつくって?私みたいに愛情を知らない子供にしないでね」


生を受けたことを恨むような、そんな子供にしないで。



「……愛情か、」


そうぽつり呟いたタキは、顔を歪めた。


「おまえも誰かのことを愛せれば良いな。いつかそんな日が来ることを、俺は待ち望んでる」


「ううん。私はタキを愛してるよ」


「えっ……」



ストレートな表現に、タキは面食らった顔になる。



「タキのこと、ちゃんと愛しているんだよ」



伝わって欲しくて同じことを繰り返す。



「恋とは違うけど、友達としては凄く好き」


「……友達としてかぁ」


「うん」


「ありがとう」


2人で笑った。


後、半年したらタキはアメリカに行く。

それで、いい。



側にいたら甘えてしまいそうな私に、神様は意地悪をしたのだ。


タキから離れても、ひとりで立っていられるように試練を与えられたのかもしれない。



それならば、受けて立とう。タキを困らせないために。



「もう此処に来ることも、ないのかな?」


私とタキが初めて言葉を交わした場所。

珍しくもない、ファミリーレストラン。

< 29 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop