愛のない部屋

「なによ」

つまらない番組から目を離さずに、強い口調で返答。

そっちがそんな態度で喧嘩を売ってくるんだから、それ相応の対応をしてあげる。

いつもの私のスタンスだ。



「滝沢さんが来るって」


「えっ?今?」


"滝沢"という名前に反応して、思わず振り返ってしまった。



「ああ」


不機嫌そうな顔。



私なんかとは話したくも無いのだろうね。

眉間に刻まれた皺を見て、胸が痛む。




峰岸 慶吾(みねぎし けいご)。

それがカレの名前。



長い睫毛から覗く黒よりは茶色に近い瞳は真っ直ぐで、

きりっとした眉は、少し冷たい印象をもたせる。



申し分のない顔立ちで、一流大学卒業。



完璧な男。





本当は優しい奴なのだと思うけれど、
私には冷たい。



氷のように、冷たい。




嫌われている、
と出逢ったその日に感じた。





そして、私も峰岸が嫌い。



才能も地位も、全てを持ち合わせているであろう峰岸を、


受け入れられないのは、


醜い感情のせい。





私にとって峰岸は、


太陽のようにキラキラ輝いていて。



同じ場所に立つことも許されない、天の上の存在なのだ。


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