愛のない部屋

再び目を閉じた。
5分だけ、真っ暗な世界に浸る。

タキは幸せになる。
それを祝福する気は十分にあるのに、寂しいと思ってしまう心。


「5分経ったぞ」


耳障りな声が響いた。


「起きてますよ」


社会人失格の朝、手鏡の前で溜め息をつく。

酷い顔。
シャワー浴びないと電車に乗れないな…。




そっと部屋の扉を開けると、峰岸のドアップ。

高い鼻が、ドアにぶつかった。



「痛っ!」



顔を歪めて鼻を抑える峰岸を見て、なんだかおかしくなった。



「笑ったか?謝れよ」


謝罪の言葉を求める男を無視し、洗面所に向かおうとして腕を掴まれた。


その強い力を反射的に振り払ってしまう。



そして平然と問う。



「なに?」


「滝沢さん、心配してた」


「なんで?」


「おまえが作り笑いして、無理してるようだったって……」



見抜かれていた。
笑顔という仮面が、タキには通用しない。
そんな当然のことを思い出せなかったくらいに動揺していたようだ。

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